2024.04.08
観光
美馬市
脇町うだつの町並み(美馬市)周辺
文化

雨除けのためではないわけ 奥深い美馬和傘

三好市地域おこし協力隊(台湾出身)の林です。

和傘といって最初に思い浮かぶのは、和菓子屋の客席に設置された、一本の大きくて、鮮やかな赤い和傘ではないでしょうか。

この様子に、初め私は少し困惑しました。

なぜなら、いくつもの席があるにも関わらず、傘は客席の端っこに一本しかなく、どうやって雨や日差しからお客さんを守るのだろうかと。

現代人の私の認識では、傘の機能は雨や日差しを防ぐことです。

しかし、美馬市にある美馬和傘製作集団の工房風景を見学することで、現代的な傘に対する固定観念が覆されました。

 

 

美馬市は、三好市・つるぎ町・東みよし町を含めた徳島県西部のにし阿波観光圏に属しており、1950年代の全盛期には、約200軒の傘店や製造業者があり、年間約90万本の和傘が生産されていたという。

時代の変化により専門の傘店はなくなりましたが、近年「美馬和傘製作集団」という和傘文化を大切にする愛好家グループが結成され、伝統的な傘作りの技術を継承・保存を目指し、現在も伝統的な技術で傘の製作を続けています。

私は和傘のことをより深く知るため、「うだつの町並み」という伝統的な町並みが残る、「美馬和傘製作集団」の工房を訪れました。

代表 住友 聡 氏は、職人が色彩豊かな飾り糸で、傘の内部に模様を織る工程を見せながら、和傘の歴史を語ってくれました。

 

 

古代日本では、和傘はもともと権力の象徴であり、身分の高い人だけが使われるものでした。当時の傘は「衣笠」と呼ばれ、折りたたむことができず、現代の傘の原型とも考えられています。傘の主な機能は、傘の下にいる人を邪気から守ることでした。古代から日本では、万物に霊が宿られ、その中にいくつかは邪悪なものもあるという考え方があります。そのため、傘の内側にある骨に彩色の糸を織り込んで陰陽や五行を表す模様を作りました。こうして傘に結界をはって、傘の下にいる人を守ることになります。

これはとても日本の伝説が感じられる話ですね!日本のアニメをよく見る人は、「結界」という概念に馴染みがあるはずです。見えない、触れない「結界」が目の前の和傘にあるということは本当に素晴らしいです。

 

そして、傘の色も身分によって異なります。今の日本の神社での祭りの際、例えば皇室の方々も参加される伊勢神宮の祭りなどでは、大きな赤い傘が使われます。遠くからでも、行列の中で最も身分の高い人がどこにいるかがすぐにわかります。古代においても、傘は単なる雨除けではなく、身分や権力の象徴と言えるでしょう。

因みに、和菓子屋にある印象的な大きな赤い傘についてですが、これは最初に豊臣秀吉が京都の北野天満宮で開かれた千人規模の大茶会で使用されたと言われています。彼はこの傘が大変気に入り、それ以降の茶会もよく使うようになったようです。そのため、大きな赤い傘は日本の和菓子屋、特に屋外席がある店舗の象徴の一つとなったとされています。

しかし、時代の変化と便利な洋傘の普及に伴い、和傘は次第に使われなくなり、特に風や雨から身を守るために使うのが面倒だと思わるようになっています。現在では、和傘は主に伝統工芸品として、高級な旅館や伝統的なお店で見られるようになりました。

 

 なぜ和傘は伝統工芸となっているのか。下の古い写真から見えるように、和傘はさまざまな部品で構成され、異なる素材を使用するため、部品ごとに専門な経験と技術が必要とされます。したがって、各部品は専門の職人によって作られ、和傘はさまざまな工芸の集大成となっています。

 

 とてもラッキーなことに、今回の取材で「骨師」と呼ばれる傘の骨を製作する職人の作業現場に立ち会うことができ、竹から傘の骨を作る作業がどれだけ労力を要するかを実際に目にしました。傘の骨は竹から作られていますが、ただ竹であればよいわけではありません。竹節の長さが傘のサイズに合致する必要があります。そのため、適した竹を選ぶ段階からそれなりの経験と技術が必要です。選んだ竹を専用の機械で薄く切ったり、穴を開けたりします。また、竹は自然なものであるため、竹節の長さに微妙な差があり、工夫して最も適した骨を作らなければならなりません。これらのすべての工程には経験と技術が必要であり、機械が代わりにできることではありません。そのため、和傘の製作は、非常に時間と労力がかかり、それが価格にも反映されています。

 しかし、何よりも重要なのは、和傘は本当に美しいということです!そんなに美しくなるまでにかかった職人技術からすると、値段はとても高いとは思いません。また、美馬和傘製作集団では、本格的な和傘を作るだけでなく、ランプシェードとして使用できるミニ和傘を作る体験も行っています。

 

 取材に行った際、住友さんは「和傘を持って、外で写真を撮ってみたら?」と私たちに聞いてくれました。もちろん「はい」です!下の写真のとおり、古風な街並みをバックにして撮影する、和傘は本当に魅力的です!ちなみに、ここでは着物を着て、人力車に乗る体験もできますし、もちろん和傘と一緒に写真を撮ることもできます。着物を着て人力車に乗ると言えば、浅草や京都を思い浮かべる方も多いと思いますが、そこでは地元の人より観光客が多いかもしれません...一方、ここ、にし阿波では、街本来の風情ある町並みを歩きながら、本当の日本の伝統的な風景を体感できます。

 

 正直に言うと、和傘がこんなに奥深いものと知るまでに、私にとって和傘は遠い存在でした。しかし、このように話を聞き、和傘の美しさ(そして結界!)を至近距離で堪能した結果、私も一本欲しくなりました!そのため、これから貯金しようと思います。

 

 美馬和傘製作体験について詳しい情報はこちらのホームページをご覧ください!